今日からシメンソカメンバー4人がそれぞれセレクトした写真集のレビューをしていきます。1回目は矢野巌セレクトの写真集です。



『街の火』星玄人


2007年 発行ガレリアQ

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人は生きている。
生きるということは命を燃やすこと。
燃えた命は微かな光を放ち、街の中でそれぞれに輝いては儚く消えていく。

この写真集の舞台となっているのは、主に歌舞伎町など夜の街。
まだ『スマホ』がなく『ケイタイ』が広がり始めた、
ノストラダムスの大予言が当たるか当たらないかの落ち着かない時代。

写っているのは夜の住人。
全身に刺青の入ったチンピラたち。
胸元やパンツなども露わになった女性たち。
ホームレスや、ラブホでの裸の女性。
ごついオカマや、酔いつぶれた人たち。
野良猫やドブネズミ。
そんなものばかり。

きちんと学校を出て、きちんとした会社に勤めている 人から見れば、
決して綺麗ではないし、上品さなど何処にもない。
笑顔の写真が多いわけでもなく、虚ろな目や、ただこちらを見ているだけの写真も多い。

しかし、僕は初めてこの写真集を開いた時に、
言いようのない優しさと懐かしさを感じて、どうにも泣けて仕方がなかった。

ここで僕自身の話をすると、実家が田舎で飲食業を営んでいた。
店は家と繋がっていて、家には多くの従業員や業者が常にせわしなく出入りしてた。

昭和の板前たちは気性も荒く、今で言うところの半ばヤクザに近かった。
水商売あがりや訳アリの女性たちも多く働いていて、
彼女たちの子供は、仕事が終わるまで僕と一緒に食事をし、生活を共にしていた。
彼女たちの必要以上の色気が、時に諍い の種になることもあった。

彼らは時に我が家の金をくすねてみたり、
両親へ金を借りに大泣きしながら土下座をしてみたり、
子供の僕に金を無心にきたり、
僕を可愛がってくれていたヤンキー高校生は、突然に自殺したりもした。
虚言癖もいれば、ギャンブル狂やアル中も当たり前にいた世界。

ずっと見てきた中で彼らに共通していたのは、
彼らは哀しくて、とにかく優しかったということ。
もちろん悪意や敵意を向けられたことだって何度もあるが、
心からのものでなく、哀しさや苛立ちから来るものだったように思う。
学歴や地位はなくとも、誰もが人の辛さを知っていた。
本当の善人も悪人も、どこにも居なかった。

この写真集に収められているのは、そんな世界。
幼い頃に見続けた彼らの世界。

おそらくは、そこから遠ざけようとしたであろう両親の方針もあって、
今の僕は彼らと割合に遠い世界を生きている。ような気になっている。
けれど、この写真集を開く時、普段は忘れている記憶が掻き毟られてしまう。

写真を撮った星玄人氏の過剰な自意識や、挫折や人との距離。
あとがきにも長々と書かれているが、そんなことは書かなくても分かる。
彼もまた人の哀しさと優しさを知っているからこそ、この写真が撮れるのだ。
苦しさ、哀しさ、寂しさを経てからカメラを手にした彼だからこその優しさが、全面に伝わってくる。
中途半端に距離ができた僕には、撮りたくても撮れない世界。
だからこそ好きな写真集は?と聞かれたときに、僕 はいつもこの写真集を真っ先に挙げる。

彼も知っているはずだ。
微かな人の輝きが集まって街の火になり、やがて消えていくということを。
その火は、どこまでも優しいということを。

矢野巌

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reviewer 矢野巌 / blog editor 椿原桜果

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2016.02.17
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